mengineer's blog

ニッチなネタばかりですが。

EMVA1288の世界その4:ダイナミックレンジなど

このネタも四回目に入りました、最初から見たい人はここから。

mengineer.hatenablog.com

三回目まで読んで頂いた方、EMVA1288がどういうものか?
多少のイメージだけでも伝わっていると嬉しいです。

実際の計算方法まで考察している関係上、毎回数式ばかり出てきて、
嫌になっている方も居られるかもしれませんが、もう少しお付き合い下さい。
(実際のデータの見方などは、別途また説明しようと思います)

さて今回は第三回目の最後に出てきたEMVA1288のパラメータの表で、
下記の赤枠部分について見ていきます、青枠点線はこれまで説明済みのもの。 f:id:mengineer:20160412130037p:plain

Absolute Sensitivity Threshold

下記は、前回(その3)出てきたSNRの計算式。

 { \displaystyle
SNR =\frac{\mu_{e}} {\sqrt{\sigma^2_{d} +  \sigma^2_{q} / K^2 + \mu_{e}}}
}

Absolute Sensitivity Thresholdは、このSNRが1となる時の光子数です。

光子数がこの数値を下回ると、ノイズに埋もれてしまうわけなので、
画像としてギリギリ検出出来る下限の閾値(Threshold)ですね。

この数値が小さいほうが、より暗い(光子数が少ない)状態まで
撮像出来るので、高感度のカメラ(センサー)だと言えます。

ここからは計算式です、Absolute Sensitivity Thresholdの単位は光子数ですが、
今回もまた、電子数 { \mu_{e}}を使った計算方法で見ていきます。

上記の式を、電子数 { \mu_{e}} を求めるように書き換えると

 { \displaystyle
\mu_{e} =\frac{SNR^2} {2} \left( 1 +  \sqrt {1 + \frac{4(\sigma^2_{d} + \sigma^2_{q} / K^2)}{SNR^2}}\right)
}

SNRが小さい(→暗い)状態では、{ SNR^2 \ll  \sigma^2_{d} + \sigma^2_{q} / K^2} と考えられるため

 { \displaystyle
\mu_{e} \approx SNR \left( \sqrt {\sigma^2_{d} + \sigma^2_{q} / K^2} + \frac{SNR}{2}\right)
}

SNR = 1 の時の電子数を { \mu_{e.min}}として、上式のSNRに1を代入すると、

 { \displaystyle
\mu_{e} (SNR = 1) = \mu_{e.min} \approx \sqrt {\sigma^2_{d} + \sigma^2_{q} / K^2} + \frac{1}{2}
}

ここに前回お話した { K^2\sigma^2_{d} + \sigma^2_{q} = \sigma^2_{y.dark}} を代入すると、

 { \displaystyle
\mu_{e.min}  = \frac{\sigma_{y.dark}}{K} + \frac{1}{2}
}

最終的に、暗時の時間ノイズ量とシステムゲインから計算出来ることになります、
光子数 { \mu_{p.min}} に変換するのは、量子効率 { \eta} で割るだけです。

 { \displaystyle
\mu_{p.min}  = \frac{\mu_{e.min}}{\eta}
}

ちなみに実際の規格書では { \mu_{p.min}} を計算する式で書かれていますが、
最初から計算式の右辺に { \frac{1}{\eta}} が入っているだけの違いです、こんな感じ。 f:id:mengineer:20160412182104p:plain

Dynamic Range (DR)

勘の良い方なら気付かれたかもしれませんが、DynamicRange(DR)は、
飽和時の光子数 { \mu_{p.sat}} と、上記の { \mu_{p.min}}の比率です。

 { \displaystyle
DR  = \frac{\mu_{p.sat}}{\mu_{p.min}}
}

要は撮像出来る最も暗いところと最も明るいところの比率です、
DRは大きい方がダイナミックレンジが広い、この表現は一般的ですね。

SNR同様、dBやbit表記では下記の計算式になります。

 { \displaystyle
DR[dB] =20\log\frac{\mu_{p.sat}}{\mu_{p.min}}
\\
DR[bit] =\log_2\frac{\mu_{p.sat}}{\mu_{p.min}}
}

前回説明したSaturation Capacity { \mu_{e.sat}}は電子数(その時の光子数が { \mu_{p.sat}}
これと先ほど計算した { \mu_{e.min}} の比率でも、同じ計算が成り立ちます。

 { \displaystyle
DR  = \frac{\mu_{e.sat}}{\mu_{e.min}}
}

規格書では { \mu_{e.sat} = \eta\mu_{p.sat}} で計算することになっていますが、前回説明したように
システムゲインKから計算すれば、DRも量子効率を使わずに計算出来るわけです。

今回はここまで、次回はTemporal Dark Noiseその他を見ていきます。