mengineer's blog

ニッチなネタばかりですが。

EMVA1288の世界その5:ダークノイズ

五回目となる今回はTemporal Dark Noise、いわゆるダークノイズです、
EMVA1288のパラメータの説明としては、これで最後になります。

というわけで、これまで説明したパラメータを簡単に復習。

名称 単位 説明
量子効率 {\eta} % 光子数→電子数の変換比率
システムゲイン K DN/e- 電子数→デジタル出力への変換比率
Saturation Capacity e- カメラが飽和する時の電子数
SNR dB or bit カメラ飽和時のSN比
Absolute sensitivity threshold p~ SNR=1となる時の光子数
Dynamic range dB or bit 上記光子数と飽和時光子数の比率
Temporal dark noise e- 今回説明

実際は他にも有るのですが、自分なりに理解出来ているのはここまでです。

と言っても、主なカメラメーカーで公開しているのは上記データなので、
とりあえず、これらの意味を理解して頂いておくだけでも充分かなと。

最近雑談ネタばかりで間が空いたので、前回までのリンクも貼っておきます。
EMVA1288の世界その1:量子効率
EMVA1288の世界その2:システムゲイン
EMVA1288の世界その3:ノイズとSNR
EMVA1288の世界その4:ダイナミックレンジなど

前置きが長くなりました、では見ていきましょう。

Temporal dark noiseの計算方法

いきなり規格書から、Temporal dark noise {\sigma_{d}}は下記で計算します。

{ \displaystyle
 \sigma_{d} =\frac{\sqrt{\sigma^2_{y.dark} - \sigma^2_{q}}}{K}
}

{\sigma^2_{y.dark}}は暗時デジタル出力分散値、{\sigma^2_{q}}量子化ノイズ、Kはシステムゲイン、
もし{\sigma^2_{y.dark} \gg \sigma^2_{q}}、すなわち量子化ノイズが無視出来るほど小さいレベルなら

{ \displaystyle
 \sigma_{d} =\frac{\sqrt{\sigma^2_{y.dark}}}{K}
}

というシンプルな式で計算出来ます。
(最初の式は、その3で出てきた{ K^2\sigma^2_{d} + \sigma^2_{q} = \sigma^2_{y.dark}} から導けます)

この数字が小さい方がノイズが少ないので綺麗な画像になります、以前も流用した
下記PointGrey社の説明が判りやすいですね、TEMPORAL DARK NOISEの項目参照。

https://www.ptgrey.com/point-grey/10931

宣伝も上手で、ノイズが大きい画像/小さい画像の例を載せて、
うちのカメラには”ノイズ低減モード”が有りますよ、とかリンク貼ってます。

この辺は、ほんと見せ方上手いなあと思いますよ、
EMVA1288関係のデータも、最近では一番積極的に開示しているメーカーです。
(あ、ここの回し者では有りませんので...、念のため)

まとめ:各パラメータを図示してみよう

最後のまとめということで、EMVA1288のパラメータを整理した図を見つけました、
ネタ元は、Stemmer Imaging という代理店の下記サイト。 www.stemmer-imaging.de

Machine Vision Technology Forum→download corner に有った、
AVT社の説明資料の図が判りやすかったので引用します。

5ページ目の下記グラフを使用。( 元ファイルはここから )

f:id:mengineer:20160417085931p:plain

横軸:光子数、縦軸:電子数、青線グラフが信号、赤線がノイズです。

光が強くなる(=光子数が増える)と青線も右上がりに上がっていきますが、
途中で飽和します、この青線の傾きが量子効率 {\eta} ですね。

飽和点を左に行った縦軸がSaturation capacity 、下がって赤線と交わる位置が
飽和時のノイズなので、ここでの青と赤の比率がSNR(飽和時のSN比)となります。

青と赤の交点がSNR=1なので、その時の横軸位置がAbsolute sensitivity threshold
縦軸位置が電子数なので、そことSaturation capacityの比率がDynamic Range

赤線(ノイズ)を見ると、光子数に比例して上がっていく部分がショットノイズ、
左端の一定となっているオフセット部分がダークノイズですね。
(今回のTemporal dark noiseは、ここから更に量子化ノイズを引いたもの)

各パラメータの関係など判りやすくまとまっていると思いますが、いかがでしょう?

ちなみにEMVA1288の資料の多くで、下記のSNR Diagram というグラフを使って
まとめているのですが、これより(個人的には)上図の方が判りやすかったです。

f:id:mengineer:20160417164512p:plain

上記の元ファイルはこちら 、『EMVA1288』でGoogle検索すると必ず出てくるので、
目にされた方も多いかもしれませんね。(2007年の資料なので少し旧いですが)

ちなみに本資料の時点では空間ノイズも含めてノイズ量を計算しており、
時間ノイズが {\sigma^2_{y.temp}}、空間ノイズが {\sigma^2_{y.spat}} 等、更に色々な変数が出てきて
泥沼みたいな(資料作られた本人が言っている)世界になっています。

その後のEMVA Standard 1288 Release3.0で、内容が見直しされたようです、
これまでの説明は全て、見直し後の内容に基づいたものなので、
上記資料と比較すると一部合わない部分も出てきます、御了承下さい。

ここまで、EMVA1288のディープな世界を五回に渡ってお届けしました、
次回、実際のカメラのデータを見てみたいと思います。